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◆◇◆ ☆建築雑知識 030号
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■■■■■ Engineer & Architect group 建築企画
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■住宅性能表示の評価基準(8)音環境−その2■
前回は音には空気伝播音と個体振動音について述べ、建物の躯体を振動させる
と大変やっかいな事になることも書きました。
今回はその有効な低減対策を述べます。それにはまず敵を知ることです。
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【防音】
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「遮音」に似た言葉で「吸音」が有ります。「吸音」も「遮音」も働きは違い
ますが、「防音」に大きな関係があります。
・「遮音」とは音を通せんぼする働きです。
丁度フーリガンがバリケードを突破しようとするのを、隊列を組んだ機動隊
が盾になって防ぐ様ですね。
機動隊の数がパラパラの人数ではバリケードは直ぐに突破されてしまいます。
人数も多くガッチリとスクラムを組んだ隊列だとなかなか突破できません。
【遮音】とはそんな感じです。
・「吸音」とは音を弱める働きです。
機動隊の代わりに美人ホステスを並べ、フーリガンに優しくウィンクでもす
ればもうメロメロ。美女に取り込まれて大人しい(音無し)集団になってし
まいます。しかし、腑抜け集団になったと言え相手はか弱き(?)女性です。
バリケードは簡単に突破してしまいます。進入阻止にはやはり機動隊は不可
欠です。でも、ホステス部隊で弱められたフーリガンの阻止は簡単です。
【吸音】とはそんな感じかな。
・では「防音」とは何かというと、遮音でも吸音でもどんな手段であれ、音が
小さくなった状態(結果)を防音と言います。
┌─ 遮音・・・音の透過をさえぎる。
防音──┤
└─ 吸音・・・音の反射エネルギーを弱める。
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【吸音】
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◆音は室内の床や壁にぶつかると反射しますが、壁や床の材料によって反射す
る音は大きな音にも小さな音にもなります。
もし、貴方のお宅の床や壁材が固くて平滑な物ですと、音はエネルギーを失
うことなく元の音と余り変わらない大きさで反射します。
この場合、反射して耳に達する音と直接耳に入る音との間に微妙なズレが生
じ、非常に聞き辛いものになってしまいます。
床がカーペット敷きや、クロスの壁のように柔らかい凹凸のある材料で作ら
れていれば、音はエネルギーを吸収されて元の音よりも遥かに小さな音にな
ってしまいます。
反射音が小さな音だと、たとえ音のズレが生じても気にはなりません。
天井___________
/\
/ \〜反射音(遠回り)
/ \
音源◎─直接──→耳(直接音と反射音に時間的ズレが生じる。)
\ /
\ /〜反射音
\/
床  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◆吸音材で音のズレを防ぐことはできませんが、反射音を小さくする働きは有
ります。
では、なぜ音が小さくなるかと言いますと、
1)スポンジの様な柔らかい材質は、反発力そのものが小さくて減衰します。
2)表面に無数の凹凸が有る材質は、凸の部分で音を四方八方に乱反射させ
て減衰させます。
また、凹の窪みに入った音は、窪みの中で反射を繰り返し中々外に出ら
れません。そうしてる間に衰退していくのです。
\ \
\ \〃
\ / ∩∩∩∩∩∩∩∩ (ホステス部隊)
\/ ∪∪∪∪∪∪∪
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄(機動隊)
固い平滑な材料は反発する。 柔らかくて凹凸の有る
材料はエネルギーを吸収する。
◇この現象は音に限ったことではないですね。私たち人間社会でも同じ事です。
冷たく、かたくなな態度では反発するし、優しくソフトに接すれば相手も穏
やかになります。
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【遮音材と吸音材の相乗効果】
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◆前回号で、空気伝播音は質量則に従う。質量の大きい物ほど遮音効果が高い
と書きました。
その原則からすると、グラスウール等の吸音材は軽くて質量は非常に小さい
物なので遮音には効果が有りません。しかし、遮音と吸音をミックスで使う
ことで、非常に優れた防音になります。
☆太鼓現象を起こし易い両面 ボード張りの壁は、中に吸音材を入れる事で音
の増幅を防ぎ、防音効果が高まります。
☆初期の二重天井が無い頃のマンションで、リフォームを機会に天井を作っ
たら以前よりも上階の音が騒がしくなった。と言う例は多くあります。
これなどは、天井が太鼓の膜の役目をしてしまった為でしょう。グラスウ
ールなどの吸音材を間に入れることで音が小さくなります。
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【遮音が優れた独立二重壁】
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前回、遮音には重量が重くて隙間がないコンクリート造が優れていると書きま
した。でもすべての建物をコンクリートで造るわけには行きません。
超高層マンションなどは階数が何十階にもなりますから、コンクリートの壁に
すると建物の重量は途轍もなく重い物になってしまい、構造への負担は大きく
なってしまいます。
そこで、軽くて尚かつ遮音性能が高い方法が検討されました。それが、独立二
重壁です。
☆1つの柱の両面にボードを張ると、太鼓現象が起きます。それを防ぐために
中に吸音材を入れると有効であると言いました。
でも、吸音材は間柱の所で分断されるし、両面の壁が間柱を共有している為、
┌───────────────────────┐
│ 音 →ボードが振動 →間柱振動 → │
│ │
│ ボード振動 →ボードの廻りの空気が振動 →耳│の順で音が伝わります。
└───────────────────────┘
《両面ボード張り壁 断面図》
↓ A ↓
────┰─────┰─────┰─────┰───ボード
∽∽∽∽┃∽∽∽∽∽┃∽∽∽∽∽┃∽∽∽∽∽┃∽∽∽吸音材
────┸─────┸─────┸─────┸───ボード
↓ B ↓ 間
柱
そこで音が伝わらない様に、間柱をA面用の間柱とB面用の間柱とそれぞれ
に独立して設けることで音の伝達を防ぎます。
《独立2重ボード壁 断面図》
間
↓ 柱 ↓
────┰─────┰─────┰─────┰───ボード
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽吸音材
─┸─────┸─────┸─────┸─────┸ボード
間
柱
※真ん中の吸音材が途切れる事なくつながっている。
※間柱がそれぞれ独立しているので、間柱を介して音が伝わらない。
※コストは割高だが、コスト以上の性能を誇る。
※この方法は耐火性能も抜群、耐火壁としても採用される。
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【驚異的な独立三重壁・・・】映画館を薄いボードの間仕切り壁で二分割にする。
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映画が衰退し来客数が少なくなったため、「1階と2階をセパレートしてそれぞ
れ別の映画を上映して収益を上げたい。」と依頼がありました。
既存の建物なので、コンクリート壁のような重量の重い壁を作ることは出来ませ
ん。
そこで2階席の前面に鉄骨下地独立3重壁で間仕切ることにしました。勿論、壁
と壁の間には吸音材を入れ、それぞれの壁は ボード2枚張りです。それも音の通
り道が少しでも出来ないように縦横の ボードの目地位置を少しづつずらしながら
、決して目地が重ならないように張るという気の使いようです。
遮音は学問的にもまだまだ未知数が多くて、計算により事前にチェックが出来る
のは質量則に従った事例だけです。このような吸音材を使った遮音壁を計算で証
明することは出来ません。費用と重量を掛けないで出来ることを検討し、懸念さ
れることは全て取り除き、これ以上の物はないとの気持ちで着工しました。
結果は、万々歳です。あの映画館の大音量が、1枚1枚は薄くて軽いボードでも
映画館の大音量を遮音することができたのです。
音の性質を見極め、どうすれば音を伝達させないで済むかを追求して達成された
成果でした。
このように防音の秘訣は、音を吸音で減衰させ、音を伝える手段を絶つことです。
学校で習った「真空では音がしない」も、真空にすることで音を伝える物を取り
去ったからでしたね。
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★編集あとがき★
音で悩んでおられる方は大勢いらっしゃいます。毎日のことですから悩みも深刻です。
建物の配慮不足で私自身も加害者の立場になったこともありますし、被害者で悩んだ
ことも有ります。
しかし、遮音と吸音の性質をよく考え、音を伝える道を絶つことでほぼ解決できました。
音は伝わらなければ大人しい(音無しい)ものです。
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『建築雑知識』は建築技術者と建築家のグループ
「Engineer&Architect group建築企画」
が「建築を愛する皆様」へお送りします。
編集発行:E&A建築企画 事務局
E-mail:jim@kentiku-kikaku.com
http://www.kentiku-kikaku.com/
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