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◆◇◆ ☆建築雑知識 015号
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■■■■■ Engineer & Architect group 建築企画
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◆住宅性能表示の評価基準(3)劣化の軽減−その3◆
建物は骨組みが丈夫で有れば、リフォーム等で何年も住み続けられます。
ヨーロッパ諸国の住宅は、100年も200年も前に建てられた建物でも、大事
に住み続けています。
それは単に建物の構造がレンガ造りや、コンクリート造だからと言うものでもあ
りません。最初の発想が、建物は何世代にもわたって住み続けるものとし、建物
を大事に使うという文化を感じます。
日本の場合は自然に身を任せる文化ですから、人も物もいずれは朽ち果てるもの
との感が強い文化です。それでも自然と向き合い、自然を上手に取り入れた建物
を造ってきました。
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◇【コンクリートの劣化】
木造の劣化では、湿気やシロアリを取り上げました。
近代の建物は木造から鉄筋コンクリートに代わり、欧米のように数世代に渡って
住み続けられると期待されたのですが、現実は非常に厳しい結果です。
マンションなどのコンクリート造は、木造よりも丈夫と言われ続けてきました。
木造の強度は少しづつですが年々上がっていきます。それに引き替えコンクリー
トは大気中の炭酸ガスにより年々成分が変化し、強度は落ちていきます。
今日はコンクリートの話ですが、木造にも一番大事な基礎部分にコンクリートは
使われています。
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◆<鉄筋コンクリート造の仕組み>
鉄筋コンクリート造は、コンクリートの中に無数の鉄筋が入っています。
これは、コンクリートは圧縮する力には強い反面、引っ張る力には弱くすぐにク
ラックが入り壊れてしまうからです。鉄筋は逆に引っ張る力には強く、押さえる
力にはクニャクニャと曲がってしまいます。
長所と短所を持ったこれらの2つの物質を一体にすることで、互いに短所を補い
長所を生かし、非常に強い力を発揮します。
鉄筋を覆っているコンクリートの部分を「被り(カブリ)」と言いますが、構造
的な強度には何ら関係がありません。この部分は鉄筋を錆から守るためにだけ有
ります。
中に入れた鉄筋は錆びるともろくなりますが、コンクリートが鉄筋の廻りをガー
ドする事で鉄筋が錆びるのを防いでいます。ところがコンクリートのアルカリ成
分が大気中の成分により中性化すると、鉄筋を守る力がなくなり鉄は錆びてしま
います。
鉄は錆びると体積が膨らみ、膨張する時の力は廻りのコンクリートを突き破るほ
どです。
そうするとコンクリートの剥離が始まり、強度は見る見る低下してしまいます。
結局鉄筋コンクリートの劣化はコンクリートの中性化から始まります。
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◆<コンクリートの中性化>
コンクリートは表面の大気と接する部分から中性化は始まります。中性化のスピ
ードは地域地域によって違ってきますが、1年間でコンマ数ミリの世界です。
建築基準法では、中性化を見越して部材の重要度と状況に応じて2cm〜6cm
の範囲で決めています。
鉄筋コンクリートは60年から100年持つと言われるゆえんは、この被りが中
性化する迄の年数から導き出されています。
しかし、現実の大気汚染は厳しいですね。大気汚染は人体だけでなく、物言わぬ
コンクリートをも蝕んでいます。
◆<中性化防止>
・中性化の時間稼ぎ。 ・・・被りを厚くし、鉄筋までの中性化に年数を掛か
ける。
・表面をコーティングする。・・・コンクリートと炭酸ガスを直接に接触させず、
中性化を防ぐ。
(弾性タイル吹付け、タイル貼り等がこれに当た
りますが、タイル貼りの場合は目地のモルタル
の劣化に注意が要ります。)
・元のアルカリ性にする。 ・・・皆様も荒れた肌には乳液剤を擦り込みお肌を回
復させますね。同じように中性化したコンクリ
ートにはアルカリ水溶液を浸み込ませ、元のア
ルカリ性に回復させます。
・密なコンクリートにする。・・・コンクリートの成分が密だと、炭酸ガスの進入
をガードします。
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◆<コンクリートの劣化は打設に問題有り>
中性化の進行は地域によって違うと言いましたが、それは炭酸ガスの濃度に違い
があるからです。でも、炭酸ガスの濃度以上に差が出るのがコンクリートの打設
の仕方にあります。いわゆる工事の善し悪しですね。
鉄筋コンクリート造の命は打設に有り。近年はミキサー車やポンプ車の出現でコ
ンクリート打設が楽になりました。しかし、このポンプ車の出現が鉄筋コンクリ
ート造の建築物を短命にした張本人と考えます。
コンクリートの性能は水とセメントとの成分比率で決まります。
水が多いと柔らかく流し込みやすいのですが、セメントと反応しない余分な水分
は蒸発してコンクリートの分子間に隙間を造ってしまいます。こんな荒れ肌のコ
ンクリートでは、炭酸ガスは容易に進入します。
水が少ないコンクリートの方が密なコンクリートに仕上がるのですが、施工性は
悪く充分に棒などで突っつかないとジャンカ(空隙)が出来、これは強度低下に
つながります。
理想的なコンクリート打設は、堅い(スランプ値の小さい)コンクリートを手間
を掛け充分に棒で突っつく事です。陶器などの焼き物を造るときも時間を掛けて
練り、中の空気を追い出しますね。そのような手間が必要です。
ところが、ポンプ車の出現で生コンは僅か10cm程の管を通って上層階や、遠くに
離れた場所に運ばれるようになりました。ところが堅いコンクリートですと途中
で詰まってしまいます。
途中で詰まってしまうと、現場としては大混乱になってしまいます。
そのために、コンクリート打設業者の中には現場監督の目を盗んで、生コンの中
に水を入れる者も出てきます。
現場ではコンクリートの品質検査のために、ミキサー車からテスト用のサンプル
を取り出しますが、水の注入はサンプリングの後でやってしまうため、テスト用
のサンプルの性能には影響が現れません。
実際に打設されたコンクリートとテストサンプル用のコンクリートとは性能が違
うのです。
これは(業務上?)犯罪ですが、水を注入している者には犯罪との意識も、水を
入れることの結果も分かっていないのでしょうか。
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★用語の説明コーナー★
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スランプ値・・・スランプ?調子が悪いこと?・・・では有りません。
コンクリートのスランプ値とはコンクリートの堅さを数値で表し
たものです。
スランプ測定には三角錐上の容器にコンクリートを詰めます。
その後ゆっくりと容器を引き抜きます。そうするとコンクリート
の固まりが残りますが、堅いと原型に近い形を保ち柔らかいと潰
れて広がってしまいます。
元の形からどれだけ落ち込んだかがスランプ値になります。
数値が小さいほど堅いコンクリートと言えます。
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円錐形の原型 スランプ値が小さい スランプ値が大きい
(堅い) (柔らかい)
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★編集あとがき★
次回はコンクリートに水を入れるのは何故「犯罪か」を説明します。
コンクリートの劣化の様子は次をクリックしてみて下さい。
http://www.kentiku-kikaku.com/jiturei/
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『建築雑知識』は建築技術者と建築家のグループ
「Engineer&Architect group建築企画」
が「建築を愛する皆様」へお送りします。
編集発行:E&A建築企画 事務局
E-mail:jim@kentiku-kikaku.com
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