~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~《H23.09.08記》
■ 平成23年度設計製図試験対策−5
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◆介護老人保健施設(老健施設)の構造
構造は何も特殊なことを考えなくても、一般的なRC造を前提とすればいいのではないだろうか。
地上5階建ての構造部材寸法は事前に頭に入れて対応すればいいし、スパンも特殊なものは何も無い。
強いて言えば、ここ暫く無かった吹抜けなどの伏図での表現は学習しておきたい。
設計製図の課題は、毎年の出来ごとや関心をごとが反映されることが多い。今年や近年の関心ごとは、
何と言っても地震だ。ニュージーランドの地震で多くの語学留学生が犠牲になった事や、東日本震災で
の巨大地震は、建築に携わるものにとって忘れることができない地震だ。
東北を襲った巨大地震は、地震被害より津波被害の方に目を奪われがちだが、徐々に地震の被害も明
らかになりつつある。長周期地震動や地盤の液状化など新たなタイプの被害も表面化したが、マグニチ
ュード9.0の巨大地震だった割に直接の被害は少なかった模様だ。近年日本で起こったもう一つの巨
大地震(阪神淡路大震災)との違いを見比べてみよう。
┌────────┬──────────┬──────────┬────────────┐
│ │ 東日本大震災 │ 阪神淡路大震災 │ 備 考 │
├────────┼──────────┼──────────┼────────────┤
│地震のタイプ │プレート境界型地震 │ 内陸地殻内地震 │ │
│ │ (海溝型地震) │(断層・直下型地震)│ │
├────────┼──────────┼──────────┼────────────┤
│地震のエネルギー│ M9.0 │ M7.3 │M2違うと1000倍の違い。│
├────────┼──────────┼──────────┼────────────┤
│各地の震度 │震源地130km 6強 │震源地神戸 7 │東日本は震度5の範囲が阪│
│ │ 475km 5弱 │ 50km 5 │神に比べ異常に広い。 │
├────────┼──────────┼──────────┼────────────┤
│卓越周期 │ 0.2〜0.5秒 │ 0.9秒 │木造の固有周期1.0〜1.5秒│
├────────┼──────────┼──────────┼────────────┤
│地震継続時間 │ 160秒 │ 50秒 │東日本が長〜く揺れた。 │
└────────┴──────────┴──────────┴────────────┘
※私の建築オーナーの娘さんが石巻を旅行中に、東日本大震災に遭遇してしまいました。缶詰工場を見
学中だったので、幸いに従業員の方の避難誘導で近くの小高い山に逃げ込み、命拾いしたようです。
その娘さんは、阪神淡路大震災も経験されていたので、今回の地震は大した揺れではないと感じたよ
うです。ただ、いつまでも長〜く揺れる地震だなと感じたそうです。上記のデーターはその事をハッ
キリと表しています。
結論から言うと、今回の地震の被害は以外と少なかったようだ。木造を破壊すると言われるキラー
パルス(1.0秒)が阪神の1/2〜1/5しかなく、そのために被害が少なかったと見られている。また、
エネルギーは M9.0 と大きかったために広範囲に影響を及ぼし、震度5弱の範囲は関東は勿論のこと、
軟弱な堆積層からなる関東平野を経由して、遠く離れた静岡の御殿場までに影響した。軟弱地盤は長
周期地震動を遠くまで伝播しやすいので、関東の高層ビルを長く揺らした。
【地震と試験の取組】
さて、東日本大震災が設計製図試験に及ぼす影響を書いている内に、構造計画には表現し難いなぁ
と段々思えてきた。強いて言えば、揺れ防止に免震構造を検討するのが良いだろう。免震構造の断面
図くらいは頭に入れた方がよい。
☆免震構造
免震構造は、分厚い底盤と柱の間に収めるゴム系積層愛想レーターとダンパー、大きな地中梁、ピ
ット部分と地表とのエキスパンション・ジョイントの納まり位を頭に入れと解けば良いのでは。
参考図 http://www.arcsec-meijo.jp/event/nishizawa.pdf
http://www.kaneso.co.jp/search/pdf2011/catalog/group_s/10_1_s.pdf
地震対策というと構造面にばかり目がいくが、福島の原発のように設備機器や配管にダメージを受
ける事も考慮しなければいけない。機器の設置の仕方や配管の防震対策などが必要となる。作図より
記述に役立つかも。
参考図
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/2303/230311_1houdou/01_houkokusyo2_1-3.pdf
実は、試験対策としては、東日本大震災よりもニュージーランドの方が検討に値すると思っている。
今年の2月22日にニュージーランドでM 6.1の地震が起きた。地震そのものは、地震に慣れている
日本国民にとって差ほど大きいとは思わなかったが、多くの日本の語学留学生が崩壊した建物の下敷
きになり犠牲になったため、大きく報道された。皆さんも覚えていよう。
海外の地震では、ちゃちな構造体で驚かされるが、ニュージーランドはプレートの集まりなどでも
日本とよく似た地震国だ。そんな国の建物が、いとも簡単に崩落するものかと思ったが、崩落現場の
写真と崩落前の外観を見て、即これは建物の偏芯が原因だと思った。最終的な崩落原因は、2012年の
4月の最終報告を待たなければならないが、北壁の中央部(エレベータシャフトとトイレ&給湯区画)
だけを残して、およそ「12秒間で」ほぼ全壊した姿は、完璧な偏芯にしか見えない。
原因が何であろうが、ここでは建物の偏芯を取り上げる。なぜなら、設計製図試験に汲みやすいか
らだ。地震が起きて12秒で崩壊は無いだろう。建物は壊れるにしても、もう少し粘り強く持ちこた
えてくれないと逃げる間も無い。建築基準法でもどんな地震にも絶対壊れない建物を要求しているの
ではない。できるだけ粘って、逃げる時間を稼いで欲しいとしたものだ。
【建物の耐震性能】
「地震に強い建物を造る。」これが試験で求められるところだろう。では、「地震に強い建物」とは
を改めて学習してみよう。建物の強さの概念に1.強度と2.粘り強さが有る。
強度と粘り強さの関係は、「強度があるものは変形しにくく、変形しやすいものは強度が少ない。」
という事実から説明される。
柱・梁を太くして強度を増して「1歩も退かないぞ。」と地震力に立ち向かおうとすれば、却って風
当たりは強くなり、強い地震エネルギーを受けてしまう。耐力内の外力で有れば、外力が無くなれば、
何にもダメージを受けずに元の状態に戻るが、限界を超えてしまうと一気に壊れる。
片や、頑丈な躯体じゃないけど変形する事で地震エネルギーを逃がし、大きなダメージを強く受け
ずにしばらく持ちこたえる。
変形するとは、クラックなどでダメージを受けること。外力が無くなっても元の状態には戻らない。
↑力 ↑力
Py1├────────★限界点 Py1│
│ /┃ │ /│
│ / ┃ │ / │
│ / ┃ │ / │
│ / ┃ │ / │
│ / ┃ Py2├───▼━━━━┿━━★
│ / ┃ │ /│ │ ┃
│ / ┃ │ / │ │ ┃
│/保有エネルギー┃ │/ 保有エネルギー ┃
┿━━━━━━━━┻──→変形 ┿━━━┷━━━━┷━━┻─→変形
0 δy 0 δe δy1 δy2
<図−1> <図−2> ▼:降伏点
図−1は、Py1 の力に耐えるだけの強度を持つが、限界を超すと一気に崩壊する建物。
図−2は、Py2 の強度(降伏点)までは持ちこたえるが、それ以上の耐力は無く変形することでエネ
ルギーを吸収する建物。
2つの建物の強さは力 Py1と Py2 の大きさで決めるのでなく、図−1での0〜限界点〜δyで囲まれ
る3角形の面積と、図−2での0〜降伏点〜限界点〜δy2で囲われる台形の面積の比較で決められる。
囲われた3角形や台形の面積は、それぞれの建物保有エネルギーとされる。図−1と図−2の保有エ
ネルギーが同じだったとすると、図−1は柱・梁が大きく頑丈な躯体なのに強さの評価は細い躯体と
同じ事になり、不経済と言える。
【耐力壁】
建物の強度は柱や梁を太くすれば強度が増すと述べた。しかし、ラーメンのフレームを大きくする
だけでなく、壁に力を負担して貰えば柱・梁を大きくしなくても同じ強度は有られる。壁は必ず有る
から、それを積極的に構造体として使ったものが耐力壁だ。だから、耐力壁を設ければ経済的にもな
る。ただ、耐力壁として認められるには或る一定の決まりが有る。
1.壁厚:12p以上、かつ大梁間の内法高さの1/30以上、普通18p以上
2.無開口:耐力壁には開口が無いのが原則だが、両開き扉程度の開口は許される。
3.開口は柱の際を避けて設ける。
厳密には開口周比など計算して出すのだが、試験ではそこまでしなくても良いだろう。上記の3項目
はしっかり頭に入れといて欲しい。
もう一つ大事なことは、耐震壁として評価されない壁の扱いだ。評価されないから力を負担しない
ことはない。何らかの形で負担するためにややこしくなる。ややこしいとは構造計算上だけでなく、
次に述べる偏芯に対して影響するので、耐力壁以外の壁は完全に力を負担しないように構造スリット
で縁切りする必要が有る。
【偏芯】
冒頭、ニュージーランドの建物崩壊の原因に「偏芯」を言った。いよいよ、今回の本題の偏芯だ。
建物には建物の重量の中心(重心)と建物の強さの中心(剛心)が有ります。この二つが一致してい
れば安定した構造ですが、ズレが大きいほど(偏心率が大)ほど、剛心を中心に建物が振られて変形
する。変形した部材には大きな力が掛かり、破壊に至る。
試験は構造計算を要求するものではない。偏芯率を小さくする概念を計画に反映すればいい。すなわ
ち、耐力壁を偏って設けないと言う1点だ。これは視覚的に判断するしかない。
●───●───●━━━●━━━● ●───●━━━●━━━●───●
│ │ ┃ ┃ │ │ ┃ │ ┃ │
│ │ ┃剛心★┃ │ │ ┃ │ ┃ │
●───●───●───●───● ●───●───★───●───●
│ │ ☆重心 │ │ │ │ ☆ │ │
│ │ │ │ │ │ │ │ │ │
●───●───●───●───● ●───●━━━●───●───●
│ │ │ │ │ │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │ │ │ │ │
●───●───●───●───● ●───●───●───●───●
図−1 × 図−2 ○
┏━━━┳━━━┓
┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┃
●───●━ ━★━━━●───●
│ │ 剛心 │ │
│ │ │ │
●───●───●───●───●
│ │ ☆重心 │ │
│ │ │ │ │
●───●───●───●───●
│ │ │ │ │
│ │ │ │ │
●───●───●───●───●
ニュージーランド崩壊ビル ×
★耐力壁のバランスはX方向とY方向それぞれで考える。
★偏芯は、同一階でのバランスだけでなく、断面的なバランスも必要になる。上層階の方が下層階よ
りも耐震壁が多く剛性が高い階は宜しくない。
参考写真 http://matome.naver.jp/odai/2129851977314006201
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◆老健施設は鉄筋コンクリートが圧倒的に多い。理由の一つは、5〜6階立てが多く軽量化する事もな
い。2つ目は、耐火構造を要求されるためRC造の方が経済的。3つ目は、揺れが少なく介護、老人
に安心。そんなところだろうか。耐力壁付ラーメン構造が一般的だな。
|