待ちに待った合格発表が去る15日に有りました。合格した人は長年の苦労が報われホッとしたこと
でしょう。一方、残念ながら不合格となった方々は、何故不合格となったか各々検証しなければなりま
せん。今年の試験は、作図量の多さから未完成となった人が前年より目立ちました。未完だった人も不
合格となった人も、設計製図試験と言うものを、もう一度一緒に考えてましょう。
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◆試験結果をどう見るか?
平成23年度設計製図試験の合格者は、4,560名と発表されました。製図受験者の40.7%の合格
者です。新試験制度になって、41.2%、41.8%と約40%強の合格率が続いています。
今年の特徴として、ランクUに評価された者が30.5%もいたことと、ランクVが18.1%と少なかったこと
です。描き上げれば、そこそこまとまった回答が出されたのでしょう。それだけ課題としては難しくな
かった試験とも言えます。老人介護施設は計画上変化に乏しく、機能上の必然を追求すれば自ずと回答
を得られる課題だったからでしょう。
H21 T:41.2% U:25.8% V:23.0% W:10.0%
H22 T:41.8% U:27.8% V:23.5% W: 6.9%
H23 T:40.7% U:30.5% V:18.1% W:10.7%
合格者の属性は差ほど目立った変化は有りません。今後もこの水準を維持しそうです。ただ、気になる
のは最も有利と考えられていた建築設計従事者の割合が、ここ3回の試験で減り続けていることです。
計画も、作図も完璧を目指したがために時間オーバーとなったのでは、試験の取組としては大いに反省
が必要ですね。
H21 設計46.7% 現場17.2% 監理6.6% 構造6.1% その他23.4%
H22 設計43.4% 現場17.7% 監理7.2% 構造6.8% その他24.9%
H23 設計42.8% 現場17.9% 監理7.4% 構造6.3% その他25.6%
◆標準解答例をどう見るか?
試験元から2つの標準解答例が発表されました。案の定「あんな稚拙な計画で合格案だなんて!」と
憤懣やるかたなしの声が聞こえてきます。でも、あの2例が示すレベルの計画が合格なのです。勿論、
模範解答でないので、ご指摘の通り欠点は沢山あります。欠点内容も含んだ計画なので、全てを肯定し
て次年度の受験に参考にしてしまうのは、はなはだ危険なことですね。
既に指導校から試験結果と照らし合わせて分析が発表されています。特に日経BP社からケンプラッツ
建築・住宅のメール記事に特集2:設計製図の合格の条件として詳しく出ているので一読されたら良い
でしょう。分析は日建学院によるものなので、日建学院の講評と同じです。ケンプラッツ建築・住宅
その他の指導校も独自で分析していますが、日建学院以外は表だって発表していません。「敵を知り、
己を知れば百戦危うからず。」の例え通り、分析をして相手を知ることは大切なことですが、そのデー
ターを誤って解釈すると、とんでも無いことになります。また、注意をしないといけないのは、皆さん
が提出した再現図を基に分析している点です。皆さんも心当たりがあるように、再現図は必ずしも試験
の再現になっていません。うろ覚えで再現しているため不正確だったり、面倒くさがって省略したり、
見栄で多少自分を飾りたい思いが出てしまったり、必ずしも正確ではありません。だから、これらの分
析は少し斜めから見た方が良いでしょう。
しかし、各指導校は金銭を取り指導している手前、毎年前年の分析からあたかも合格の必勝法が有る
かのように、本年度の設計製図対策はこうでなくてはならないと決めつけて指導しているところがあり
ます。少し深読みしすぎの上、1つの型にはめ指導しようとする。そのために、予想と外れた標準解答
例が出ると対応に大わらわしてしまい、方針がぶれてしまう。試験元が採点基準を発表しない現時点で、
いくら分析しても独りよがりの採点基準にしかならないと考えます。
試験元の採点基準ばかりを気にすると、既に受け身となり良い結果は得られません。受け身にならず、
貴方の考えを表に出せば良いのです。正解を探す解答でなく、いわゆる回答すればいいのです。
不合格となった貴方は、「こうすれば何点減点ですか?」と聞いたことは無いでしょうか。それよりも、
良い建物にするには、どうすれば良いか考えて欲しい。指導校も細かな分析結果に左右されず、もっと
王道の建築そのものを追求すれば合格レベルの計画になるのにと思っています。
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【採点のポイント】
試験元は、「採点のポイント」を下記の通り発表しています。
(1)空間構成
(1)建築物の配置計画
(2)ゾーニング・動線計画
(3)要求室等の計画
(4)建築物の立体構成等
(2)意匠・建築計画
(1)要求室の機能性・快適性等
(2)図面表現等
(3)構造計画
(1)構造種別、架構形式およびスパン割り等の計画
(2)スラブおよび小梁の計画
(4)設備計画
(1)光熱費の削減のための設備計画
(2)設備スペースおよび設備シャフトの計画
(3)地震等の災害に対する設備計画
(5)設計条件・要求図面等に対する重大な不適合
(1) 「要求図面のうち1面以上欠けるもの」、「計画の要点等が完成されていないもの」または、
「面積表が完成されていないもの」
(2) 地上5階建てでないもの
(3) 図面相互の重大な不整合(上下階の不整合、階段の欠落等)
(4) 床面積の合計が「3,400 m2以上、4,000 m2以下」でないもの
(5) 次の要求室・施設等のいずれかが所定の階に計画されていないもの:療養室A(4人室)、療養
室B(個室)、食堂、サービスステーション、浴室A、談話室、汚物処理室、機能訓練室、食堂
・デイルーム、厨房、浴室B、診察室、エントランスホール、レクリエーションルーム、事務
室、設備スペース、エレベーター、便所
(6) その他設計条件を著しく逸脱しているもの
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【合格するには】
1番でなくても2番で無くても良いのです。上位4割に入るれば良いのです。では、具体的にどのよう
に対応すれば良かったのか?その答えは、
1.受験者がまず4割に残るには、上記の(5)設計条件・要求図面等に対する重大な不適合を避ける
こと。これをクリアーすれば、7割方生き残る。
(1) 完成させましょう。
(2) 要求階数は守りましょう。
(3) 建築的に成立させましょう。
(4) 要求規模で計画しましょう。
(5) 要求した室は所定のところに計画しましょう。
(6) 建築主の希望は守ってね。
採点のポイントは、依頼主からすると至極当然のことですね。約束の納期は守らないは、要求した
ことは無視するはでは、計画内容の善し悪し以前に信頼関係が築けません。これでは、合格は無理
でしょう。省略図面でも提出しなければ勝負になりませんね。だから、フリーハンドでも良いとし
ているのでしょう。綺麗汚いは次のレベル。
(チャレンジャーは、綺麗に書き過ぎて時間切れ。臨機応変な対応が望まれる。)
(5) の要求室が所定の階にないと重大違反ですが、今年の課題で施設長・応接室が1階に指定され
ていたにもかかわらず、採点のポイントからは対象となっていません。従来なら失格でしょう
が、減点項目になっています。これは、余り重要でもない室を階指定してしまったことと、違
反してしまった者の数が多く、これを持って失格とするには忍びないと考えたのでしょう。
適正な判断と思いますよ。
2.(1) 空間の構成は、すっきりシンプルにまとめよう。
具体的には、柱芯(通り芯)に間仕切り壁を配置し、廊下を真っ直ぐに通すことを絶えず意識する
ことです。間仕切り壁が柱から外れ、柱をまたぐ室はすっきりしないし、使い勝手も悪い。廊下の
凹凸は、プランが整理されていないだけでなく、最も素人ぽさを感じさせます。建築士の資格試験
で素人ぽさを感じさせるようでは合格はおぼつかないでしょう。
3.(2) 意匠・建築計画は、要求室の機能や役割をしっかり理解しよう。これは重要なことで、対象と
なる建物の中身を知らずして計画などできません。だからこそ、実物の建物の見学が重要なのです。
中身をよく理解していれば取捨選択の判断ができ、悩むことも少なくなるでしょう。でも、指導校
での指導は、カルキュウラムの都合上、深く時間を割いて説明をしていないような気がします。
新試験制度になって、必要な室やEV台数など自分で決めなければならなくなりました。課題の
施設の中身を良く理解していれば、汚物運搬用と、食事運搬用と分けるという発想はできたと思い
ます。今後とも、指導校の指導を鵜呑みにするのでなく、自分で考えて進めていく事が試されるで
しょう。
機能や快適性を計画に反映させるのは難しく、捉え方は人によってマチマチです。例えば、自然
光を取り入れて明るく開放的な空間を要求されても、答えは1つではありません。チャレンジャー
は光庭(吹抜)を造りましたが、それは1つの回答で有って絶対に設けなければならないものでは
ありません。チャレンジャーは光庭をイメージし、それがすんなり計画に反映できると思ったから
進めただけで、難航していれば、サッサと諦めたでしょう。勝手に、光庭(吹抜)を造らなければ
減点になると決めつけて、受け身の立場で判断を誤った人はいないだろうか。
4.(3) 構造計画は、スパンや階高など構造計算に先立ち設計者が先行して決めることになる。そのた
めに、構造の概念は設計者として知っておかなければならない事柄です。
構造面での要求に耐力壁が良く有るが、要求された以上反映しなければ減点だろう。ただ、耐力
壁を設けるためにプランを歪めることがないように注意したい。下手な耐力壁なら、減点も覚悟し
て純ラーメンとした方がましだろう。(減点を恐れるあまりに減点を貰わないように注意)
作図については、毎年2通りの伏図の表記が示されている。点線表記と実線表記とですが、この
どちらでも良いのか、点差が有るのかの解説はこれまでに一切無い。実線と点線とでは作図スピー
ドに明らかに差が出てくるので、試験元はハッキリさせるべきだろう。受験者にとっては、採点基
準がハッキリしない以上、手間は掛かるが点線表記が無難だろう。しかし、完成が絶対なので、作
図の進行状況を見て、減点覚悟で実線表記に切り替えることも大事なことだ。
5.(4) 設備計画は、構造計画と同様にスペースなど先行して決めなければならない。実施設計などで
修正が迫られても、根本からやり直しにならないように設備の概念は知っておかなければならない。
今年の空冷ヒートポンプマルチ型エアコンでは、熱を放出する屋外機と室内吹出機との間に複数本
の冷媒管が必要との概念が有れば、まとまったPSが計画されたでしょう。
過去2回の試験では、自分で適切な設備方式を考えて進める形式だったが、今回は設備方式は試
験元から与えられたために、それに対する知識や概念が必要となりました。この傾向は、今後とも
続くと思われるので、用途に応じた2〜3の方式の概念を学習する必要が有るでしょう。
また、設備に関しては、スプリンクラーのアラーム弁など詳しい仕組みなどでなく、スペースや
ルートなど建築側で用意するものの概念を学習することが必要でしょう。
震災を機にエネルギーの基本が見直されようとしています。建物に占める設備のウエイトは年々
高まってきており、建築士も設備に関してはもっと関心を示さなければなりません。その意味で、
今年度の課題で災害に対する設備計画を問うたのは、的を得た課題であったと思います。受験者の
皆様も日頃から、設備を含めた建築に関心を示す必要が有ります。指導校で教わる金太郎飴見たい
な回答をしていては、建築士として残念な限りです。
6.計画の要点は、上記の採点のポイントには特別に記述されていませんが、図面とセットで各項目を
考えて下さい。図面で表しきれない部分や、計画を補完(言い訳)する重要な役目を持っているの
で、有効に利用しましょう。また、要点だけで採点される項目も有りますから、合否に大きく影響
します。指導校が用意したマニュアル化した文章を書き並べるのでなく、自分自身の言葉で記述す
る訓練が必要になります。
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【失敗した人へのアドバイス】
1.付け刃的な即興の学習でなかったか?
建物の用途や学習は課題が決まってからだが、建築計画はそれ以前からでもできる。H23年に取
り組んだ課題を時間を気にせずにもう一度取り組んでみたら、計画のコツが掴める。玄人っぽい図
面にするには、それなりに時間を掛け練習が要る。
2.日頃から建物に興味を持っていたか?
建築士の資格を得ようとする者が、日頃建物と遠い存在でいても合格はおぼつかない。話題の建物
を見聞きし、雑誌やWeb情報に積極的に接する。(当サイトを利用するのも1つ。)
3.自分なりに納得のいく計画をした事が有るか?
練習課題を数多くこなすのも大事だが、未消化のまま次から次へと課題を繰り返しても、エスキス
のコツは掴めない。じっくりと取り組んでみよう。
4.指導校に入学したから合格できると安易な考えでなかったか?
指導校に期待できるのは、練習の機会や場所だ。結局は自分自身で悩んで解決しなくては。
5.受け身の立場で試験に臨まなかったか?
こうすれば減点だろうか、あぁしなくてはダメなんだろうかと答えを探そうとしない。有りもしな
いトラップを探したり、受け身では正しい判断はできない。試験は貴方の力の発表の場だ。自身を
持って回答すればいい。
6.自分の力を過信して無かったか?
優秀な計画を目指し、要求されてもいない事柄をこだわりすぎて時間オーバーとなっては元も子も
ない。上記の【合格するには】の通り、平凡でオーソドックスな発想で臨め。
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◆合格発表から1週間が過ぎ、そろそろ立ち上がらねばと、当サイトを訪問されたものと思います。
失敗の悔しさをバネにして、次に試験に向かって進みましょう。
「E&A」の一級建築士受験サポートは、そんな皆さんをサポートします。不定期ですが、設計製図の
要点を随時お送りしますので、ご覧になって下さい。
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をご利用していただくと有り難いです。
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