設計製図試験から一月以上が経過しましたが、受講者の皆さんは試験前の生活に戻られましたか。
試験直後は、振り返ってあーすれば良かった、こーすれば良かったと後悔ばかりの日々ではなかったで
しょうか。試験でのあの緊張感。失敗は許されないと、変にこだわった一字一句。今にして思えば、ど
うしてあんな風に考えたのだろうと思うことが多いのではないでしょうか。
でも、過ぎ去ったことです。悶々とした気持ちでしょうが、結果は12月の発表まで待たなければなり
ません。
今回は試験での残りの計画の要点をお送りします。
「今更、試験のことは振り返りたくないよ!」とお思いでしょうが、冷静になった今だからこそ振り返
るのに意味があると思いますよ。
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チャレンジャーの計画の要点
(1) 建築計画について、次の@〜Cの要点を具体的に記述する。なお、要求図面では表せない部分につ
いても記述する。
@建築物のアプローチの計画について、その位置とした理由及び動線計画において工夫したこと。
A.広範囲の人が寄りつきやすいように、北側の歩道付道路からのアプローチをメインにした。また、
公園及び遊歩道と一体となった美術館にするために西側及び南側からのサブのアプローチを設けた。
.搬入車両は東からのアプローチとし、出来るだけ利用者と車の交差を避けた。また、遊歩道側に出
入口を設けたのは、駐車場利用者が遊歩道を活用して搬入車両と交差せずに安全にアプローチする
ためである。
A常設展示室及び市民ギャラリーの計画について、その位置とした理由及び動線計画において工夫した
こと。
A.窓のない展示室より、ホワイエを眺望の良い南に優先配置することから、展示室、市民ギャラリー
は北側配置とした。
.市民ギャラリーは企画展示の用途のため、搬入動線を考慮し東側に配置した。常設展示室の搬出入
は頻繁でないために、休館日でも可能と考えホワイエを挟んだ西側に配置した。
B収蔵庫(搬出入経路等を含む。)の計画について、その位置とした理由及び動線計画において工夫し
たこと。
A.収蔵庫は常設展示室と深く関わりがあることから、常設展示室がある2階へ配置した。また、1階
からの搬入路は、動線が極力短くなるように搬入・荷解き室、EVを東側にコンパクトにまとめた。
C屋外創作広場(アトリエ、公園及び遊歩道の関係を含む。)の計画について、その位置とした理由及
び動線計画において工夫したこと。
A.屋外創作広場が公園で集めた木の実や川原の石を利用して工作をする場であることから、公園と川
原に最も近い南西の角とした。
.屋外創作広場の一部をピロティー形式にし、日差しの強い日など対応できるようにした。
(2) 構造計画について、次の@及びAの要点を具体的に記述する。なお、要求図面では表せない部分に
ついても記述する。
@建築物に採用した構造種別、架構形式及びスパン割とこれらを採用した理由
A.建物の規模等から経済性に優れたRC造を採用した。周辺環境から南及び西に対して広く開口を設
ける計画のため、構造的に安定した純ラーメン形式とした。そのために、柱付壁には構造スリット
を設けた。
A市民ギャラリーを無柱空間とする構造計画について、工夫したこと。
A.基本構造がRC造である建物にあって一部無柱空間を構成する時、構造的に安定した7mスパンを
均等に配置することを優先させたために、無柱空間は14mの長大スパンとなる。14mもの長大
スパンを経済的に計画するために、屋上積載荷重が少なくなるようにし、鉄骨梁で支えるようにし
た。
(3) 設備計画について、次の@〜Bの要点を具体的に記述する。なお、要求図面では表せない部分につ
いても記述する。
@常設展示室、エントランスホール及び研修室に採用した空調方式と採用した理由
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│ 空調方式 │ 記 号 │
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│空冷ヒートポンプマルチ型エアコン │ A │
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│空冷ヒートポンプパッケージ床置き型(ダクト吹出し型、再熱ヒーター付) │ B │
├───────────────────────────────────┼────────┤
│定風量単一ダクト │ C │
├───────────────────────────────────┼────────┤
│変風量単一ダクト │ D │
├───────────────────────────────────┼────────┤
│外調機+ファンコイルユニット │ E │
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│ 室 名 │ 記 号 │ 採用した理由 │
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│常設展示室 │ B │省エネとエコロジーな点から2階の空調機械室に2階用空調機│
│ │ │を設置し、ダクトにより空調を行う。 │
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│エントランスホール│ B │省エネとエコロジーな点から2階の空調機械室に1階用空調機│
│ │ │を設置し、ダクトにより空調を行う。 │
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│研修室 │ A │研修室を使用するときのみ稼働するタイプで、収容人数等での│
│ │ │温度変化に個別制御がし易いため。 │
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A収蔵庫に必要な環境条件を満たすための建築的手法(構造、内装等)及び設備的手法(採用した空調
方式と採用した理由)について、工夫したこと。
A.建築的手法
絵画等保管に最新の注意を要する室なので、一定の温湿度に保つ必要がある。そのために外気温や
コンクリートからの湿気等から直接影響を受けないように、2重の床、壁、天井とした。
.2階空調機室に常時運転の収蔵庫専用ヒートポンプパッケージ床置き型(ダクト接続型)を設け、
建築的手法で設けた2重の床、壁、天井の空間に空調された空気を送ることで、一定の温室度を保
ようにした。
B常設展示室の照明計画について工夫したこと
A.ベース照明として天井に発熱、省エネ効果のあるLED照明のダウンライトを使用し、展示物の変
更に対応しやすいように、また、展示物の照明効果を自在に上げられるようにライティングレール
を設けた。
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【要点記述について】
昨年から大々的に実施されるようになった計画の要点は、2回目を迎えその意味するところが明確に
なりつつあります。
最終的論評は12月の発表を待たなければなりませんが、出題方式が複合用途から単独用途になった新
制度では、計画の要点の重みが確実に重くなってくるでしょう。なぜなら、単独用途では完成率が90
%を超えるようになり、受験者に差が出にくくなってきたからです。新制度では計画の容易さや、計画
の自由度が増しました。それだけに、計画に対する設計者の意図や、建物に対する設計的知識が要求さ
れるのです。
だから、受験指導塾や資格学校が提供する計画の要点の解答例を、なかば暗記したような回答では意味
を成しません。計画に当たっては、明確な意思を持って下さい。何故このような計画にしたか、自ら説
明できなければ、それは計画とは言えないでしょう。新制度は、そう言う意味からも実務に近い制度に
変貌しつつあると言えます。
反面、新制度は、より時間的には負担の多い試験になったと思います。時間との勝負の試験は、昔と
なんら変わりません。時間制限がある中ですべてが意思通りに進むとは限りません。多少は妥協も必要
になってきます。
計画の意思を持つことで、自分なりに優先順位を立てやすくなるし、最終的には計画が建築らしさを
持つことが出来るでしょう。課題文のすべてを満足しようとあちらもこちらも立て、建築的に崩壊する
より、意思をもって1つ筋を通せば、それなりに建築的な物には仕上がるでしょう。また、意思を持っ
て進めることが、エスキスも計画の要点もまとめ易いはずです。
構造計画や設備計画の要点の記述は、かなり本質的な知識を要求します。学科で色々と学習して合格
した皆さんですが、真に理解していないと計画と記述が一致しなくなります。今回の試験で、構造や設
備においては、表面的な理解では済まなくなりそうです。このことは、受験した皆さんが一番お解りで
は無いでしょうか。マークシートではない製図試験の難しいところですね。
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