~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~《H21.1.22記》
■ 平成21年度設計製図試験対策−2
◆試験元の評価基準を探ろう。
【標準解答例から読み解こう】
合格者発表と同日に標準解答例が発表されました。発表に際しては、下記の文が添えられています。
標準解答例の公表について
標準解答例は、試験の透明性を高めるとともに、建築士を志す者に対して、習得すべき知識及び技能
(一級建築士として必要な「建築物の設計に必要な基本的かつ総括的な知識及び技能」をいう。)の
目安を示す資料として、当センターに設置された試験委員会で作成されたものです。この標準解答例
は、当センター本部・支部及び都道府県建築士会の事務所に掲示するとともに、インターネット上の
当センターのホームページ(URL http://www.jaeic.jp/)にも掲載します。
なお、標準解答例は、合格水準の標準的な解答例を示すことを意図したものです。
既にご覧になっていると思いますが、皆さんは標準解答例を見て試験元の採点基準が分かりましたか。
標準解答例だけを並べられても、どう解釈すればいいのか戸惑ってしまいますよね。確かに、H15年
度の発表からは標準解答例を公表するようになり、試験の透明性を高めようとする努力は感じます。
しかし、何を持って標準的と称されているのかがさっぱり分かりません。試験元にはもう少し努力し
て貰いたいものです。
公表されるまで待てないので、勝手に読み解いてみましょう。
まず、試験元が想定した標準解答例は2例とも出来の良い方だと思います。多くの合格者の計画は、
もっと問題点を含んだ内容のようでした。それだけ受験者にとっては、今回の課題は難解だったので
しょう。
<標準解答例講評>
参照 標準解答例−1
標準解答例−2 (標準解答例は、H21年7月下旬には消去されます。)
解答例-1の特徴は、1階にプール、更衣室を設け、上にトレーニング部門を載せて、その部分の構
造をSRC造にしていることです。理にかなった無駄のない動線を考慮した素直な案ですね。
もう1つの特徴は、基準階のシングルルームを1スパンに縦長3室を配置することで、I型の綺麗な
基準階を作り出しています。
只この案は、共用部門の荷解き室、従業員出入口、守衛室などの管理サービス機能をホテルに限って
まとめたため、フィットネスへのサービス動線が確保されていない等の欠点が有ります。それ以外は、
目立った欠点が少ない案になっています。
計画要点の記述も計画と整合しており、計画の意図をしっかり持って計画されたのが伺える計画です。
解答例-2の特徴は、基準階プランにセンターコアタイプを採用したことです。
宿泊室の数が多い場合は、I型プラン以外にL型タイプやツインコリダータイプ等が考えられます。
ただ、ツインコリダーにしてもセンターコアにしてもこのタイプは、コアの位置が固定されて融通が
つき難くく、試験のような短時間での処理は難しいですね。だから、受験者の回答には余り見かけな
かった計画案です。
センターコアの基準階は整然と綺麗にまとまっているのに比べ、1階2階のプランは複雑です。
原因は、本来、ウエットゾーンとしてのロッカー室とプール室とを一体でまとめるべきところを、階
を別けて分離したからでしょう。
ロッカー室の特記事項に「屋内プールへ直接行き来が出来るようにする。」となっていたから、これ
には驚きました。フィットネス内の動線を優先する余りの苦肉の策なのでしょうね。
プールを2階に上げたからには、動線で減点を貰うかゾーニングで減点を貰うかで、いずれにしても
減点には違いないと思います。この辺のところの論評を試験元にはして欲しいですね。
<共通事項>
● 両案とも0.5m単位の寸法を使ってます。0.5m単位は、用紙に印刷された1m単位のメッシュから
外れるのでなかなか踏み切れないのですが、平成18年度の標準解答例からこの傾向は見られます。
スパン割りは、本来は機能に応じて自由に決めるもので、メッシュの為にスパンを決める方が邪道
ではありますが、私も基本形は7×6、7×7と1m単位で進めています。それはあくまでも、短
時間で進めるための便法だからです。
しかし試験時間も1時間伸びることですし、時間が許すなら0.5m単位での調整も場合によっては必
要かもしれません。でも、皆さんには基本形が身に付くまでは、1m単位のスパンでの学習を奨め
ます。約による室面積の増減を使えば、それで十分可能だからです。
● 基準階の客室は、同じタイプは同じ面積・形状でまとめられています。このことことが、すっきり
とまとまった計画に感じにさせています。
同じものが幾つも並ぶような建物は、スパンも均一になりメリットが出易いので心したい事です。
均一にするために、客室の面積は、約の面積調整±10%を巧みに使ってまとめています。
解答例−1
シングル:2.5m×7.0m=17.5u < 16.0u×(100+10)%=17.6u
ツイン :7.5m×3.5m=26.25u< 24.0u×(100+10)%=26.4u
解答例−2
シングル:3.0m×5.0m=15.0u > 16.0u×(100-10)%=14.4u
ツイン :3.75m×6.0m=22.5u> 24.0u×(100-10)%=21.6u
両案とも、基準階のプランは、0.5m単位で調整するなどじっくりと時間を掛け整形に検討した様子
が現れています。完成度の高い計画と言えます。
短時間にこれだけの内容にまとめるには、課題の要求はどのパターンが展開しやすいか、事前に数
種類のパターンを準備しておかなければなりませんね。
● 避難は、ホテルの用途では重要な要素です。両案とも計画の要点にそれを記述し、計画の基本に据
えているのは高く評価されるところです。
解答例−1では、フロアーの両端に階段を配置する事で、解答例−2では、廊下をループにするこ
とで2方向避難を考えた計画としています。
ただ、残念なことに解答例−1は、西側避難階段に面してスタッフルームの開口が設けられていま
す。開口部に1u以下の嵌め殺し防火戸と、注釈がないので減点でしょう。注釈があっても好まし
いものではないですね。
● 構造は、計画の要点にも記述されているように規則正しいスパン割りで安定感があるフレームにな
っています。プール上部のみ長大スパンはSRC造としているのは、或る意味素直な展開ですね。
私自身は、「ラーメン構造によるRC造とする。」となっていたので、RC造にこだわってしまい
ました。 「他の構造種別と併用してよい。」の解釈は、フレームにまで他の構造を併用し混構造
にしてよいものか迷いました。H19年度の標準解答例に混構造の例が出されていたのは知っていた
のですが、日頃混構造は避けたいと思っていたので、フレームの一部をSRC造にすることには抵
抗があったのでしょう。
構造違反で一発不合格を恐れる余り、動線を犠牲にしてまで安全策をとったのは試験という異常心
理のなせる技だろうか。
● 便所は、H19 に続いて細かい記載はなく適切に計画となっています。便所計画で重要なことは、誰
が利用するかですね。異なる部門のゾーニング分けを要求している場合は、各部門に設けなければ
ならないでしょう。
解答例−1では、フィットネス、ホテル部門にそれぞれ設置されていますが、共用部門には有りま
せん。共用部門のコーヒーショップに単独に設けてありますが、サービス部門には見あたりません。
守衛さんや荷解き室の人はどうするのかな?
共用部門の守衛室や荷解き室などをホテル部門の共用部と間違って解釈しているために、ホテルの
2階の従業員便所を使うようにしていますね。更に、ロビー経由となっているのは頂けないです。
廊下を階段と結ぶ形にし、ロビーと切り離せば減点も軽くて済みますね。
解答例−2では、共用部門は全体の共用部としてまとめてあるので各部門に有り問題ないのですが、
残念なことに2階のコーヒーショップの客用便所が見あたりません。
ホテル側に客用出入口を設け、ホテルと一体化して有ればホテルの便所を使うと読めますが、この
ままではコーヒーショップの客用が無く、微々たるものでしょうが減点でしょう。
ロッカールームの便所は、2案の考え方の違いだ出ています。解答例−1ではプールよりのウェッ
トゾーンに設けてますが、解答例−2ではドライゾーンに設けてます。しかし、解答例−2ではプ
ールが有る2階にプール用のトイレを設け、階を分けたことへの対応をしています。このように、
誰がどのように使うかを想定して計画する事が求められています。
● 階段は、ペデストリアンデッキの避難上の扱いで2階でとどめて良いかどうかで物議を醸しました。
避難経路としては有効でしょうが、避難階として扱うのは無理が有るでしょう。やはり、両案とも
階段は1階避難階まで伸ばしていますね。
それよりも階段については、バリアフリー新法との関わりに興味を持ちました。
H18年度の試験までは、ハートビル法により階段の巾や蹴上・踏面寸法が記述されていましたが、
H19年度、H20年度と2年続けて記述はありませんでした。これは、H18年にハートビル法に代わ
って、バリアフリー新法が施行された為と考えられます。
標準解答例を見ると、H19年度は階段寸法の記述はなくてもバリアフリー新法に則ったもゆったり
とした解段となっていましたので、記述はなくてもバリアフリー法は考慮しなくてはいけないのだ
なと感じました。
ところがH20年度の解答例では、利用者用であってもバリアフリー新法の寸法は考慮してない階段
になっています。この違いは何処にあるのでしょうか?
バリアフリー法の規定は確認審査事項ですから、課題文に記述がなくても該当する建物のであれば
計画の中に盛り込まないといけない事項と考えます。課題の建物がバリアフリー法でどのような扱
いかを検証してみましょう。
H19年度課題:子育て支援施設のあるコミュニティーセンター
H20年度課題:ビジネスホテルとフィットネスクラブからなる複合施設
両課題とも用途からみて特定建築物になり、階段巾、踏面、蹴上とも基準法以上に厳しい規定が適
用されます。ただ、寸法規定のある誘導基準第4条(階段)は、「多数の者が利用する階段は、次
に掲げるものとしなければならない。」となっています。言い換えれば、多数のものが利用しない
ホテルの階段は適用外となります。従って、建築士の試験に出る課題はバリアフリー法の対象建築
物でしょうが、実体を見て多数が利用しない階段は基準法さえ守れば良いとしているものでしょう。
試験に出る階段は4m階高だと7mスパンは必要としていたのは、具体的に階段巾、踏面、蹴上寸
法を記述してあったH18年度までの試験のことであって、バリアフリー新法以後で特に指示がなけ
れば、使い勝手を考えれば基準法を満足する階段でもOKなのでしょう。
● 駐車場をピロティにして、1ヶ所にまとめています。ピロティ駐車場はいきなり発想されたもので
無く、基準階が先に敷地いっぱいに決められため生じたものでしょう。
通常は、その他の施設の駐車場は建物外に収めた方が計画しやすいのですが、今年の課題のように
市街地で建蔽率も緩い地域では、建物を敷地いっぱいに計画する方が実務的であり、建物にもゆと
りが出て計画しやすいですね。
ただ、両解答例とも歩道の切り込みが、南側からになっています。1階に於いて近隣のブロックに
行くにはこの南側を通らなければ行けないから、最も人の流れが多い南側歩道を切り下げるのは好
ましいことではありませんね。出来ることなら、比較的人通りが少ない東側歩道の切り下げが望ま
しいところです。
● 課題の特徴であるペデストリアンと常時通り抜けの為のEVやESCの扱いが、両解答とも曖昧に
扱われています。敷地周辺の人の流れが深く考えられていないようです。敷地外のことは関係ない
のでしょうか?それは無いですよね。
皆さん課題の周辺状況を思い出して下さい。ぺデストリアンデッキと道路状況が描いてあります。
周辺図を見ながら人の流れを想定してみましょう。(参照)周辺状況
この状況は駅に向かって人々が集まり、また駅からは多くの人々が放たれます。人の流れは2階の
ペデストリアンデッキがメインですね。何故なら、ロータリーの南の道路は、1階では敷地の東側
の横断歩道に限られて簡単に横断が出来ないからです。
横断が出来ないと言うよりも、車をスムーズに通過させるためと、歩車の接触での危険を避ける為
に横断させないように、ペデストリアンデッキで立体交差させたものでしょう。
今年の課題は、該当敷地が何処なのか分からないほど広範囲の周辺図を示したのは何故だったんで
しょう?ペデストリアンデッキの状況を伝えたかったからではないですか。それなのに、両解答例
とも、只接続していれば良い的な解答になっています。受験者の解答もほとんど掘り下げては回答
していませんから、標準解答例としては提示しにくかったのかもしれませんね。
受験者は、課題文の一文字一文字を注意深く読み解き、計画に正しく反映させようとしています。
EV、ESCを使って1階〜2階へ常時、自由に通り抜けが出来る計画を要求していれば、「通り
抜けって何?」と考えます。更に、周辺図下の(注2)に「ペデの階段及びEVは省略している」
と記述してあれば、その意味するところを考えます。
両解答例のように、ぺデストリアンデッキと直下の歩道をつなぐだけのEVやESCは、通り抜け
に当たりますか?ペデの上下を結ぶEVや階段は別に有るのに、この建物に常時使用する公共EV
やESCを要求しているのは何故ですか?と深く考えた受験者の嘆き節が聞こえてきます。
● 図面上の補足説明は、H19年度は平面、立面図にしつこい位に描かれていましたが、今回H20年度
は一転して僅かにしか描かれていません。この違いは何なんでしょう。
課題には、「計画の要点等を記述し、図面に該当個所が有れば、引き出し線等により補足して明示
する。」となっています。言葉通りに解釈すると、これは、記述と計画との整合性を確認しやすく
するために、該当個所に要点を記述させたのでしょう。採点者側の都合ですね。
しかし、それではH19年度の標準解答例のように、調理実習室とプレイルームの間にガラス建具を
設けたのに、わざわざ「良く見える」と注釈を入れるなど文字だらけの非常に見辛い図面となりま
した。本来、図面は線と室名など僅かな文字で表現すべきものですよね。まるで、言い訳書みたい
な図面に違和感を感じたものです。
課題の文面はH19年度もH20年度も同じでしたが、H20年度の標準解答例では、「図面で表現でき
にくい点や、分かり辛い点を文字で表しなさい。」と、該当個所より補足事項に重点が移ったよう
に感じます。階段での2回転の記述や、フィットネス部門の踏み込みの上足・下足の記入などです。
これが、まともな図面ですよね。お陰で、H20年度の図面は要点が解りやすい、すっきりした図面
となりました。H21年度は、「補足説明や計画要点で主張した点は図面に記入しなさい。」として
貰いたいですね。
● 今年の課題は、地区計画の要素も含み、真剣に考えれば考えるほど難しい課題だったと思います。
設計の知識や建築に関心を持った実力者ほど、課題を真剣に考えて悩んだ課題だったのではないで
しょうか。
でも、試験なんですよね。描き終えない事には評価されない試験なんです。ベテランや熟知した者
が内容を競う競技設計ではないのです。基礎的な技量が備わっているかの判定試験なんです。
合格しても技術的に未熟なのは、合格者自身が自覚しています。どの資格でも、資格を採った時点
が完成でなく、スタートラインに着いたのだと分かっています。
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◆ 受験者の公表回答から、合否の判定基準を探ろうと予定していましたが、まずは試験元が公表した
標準解答例から探るのが先だろうと、急遽変更しました。
次回受験者の回答を基に探ろうと思います。こうご期待!
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