~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~《H19.6.29記》
■ 標準解答例から読めること
試験元から標準解答例が発表されるのは、今年で4回目となります。4回目となると解答例を見る側
も第1回目と違って変わって来ましたね。
第1回目の発表の時は、「こんな解答例を良く発表したな。」とか、「ここがおかしい!あそこも変
だ!」と姦しい限りでした。
しかし、回を重ねるに従って、標準解答例は模範解答ではなく、合格レベルを示す解答例で有ること
が理解されるようになってきましたね。
(「E&A」が発表する解答例に対しても、同じような意見が有りました。模範ではないのです。)
そこで、平成19年度の設計製図の対策として、まず昨年の標準解答例を検証してみたいと思います。
「1級建築士受験サポート」のH18年度版に「一級建築士設計製図試験を振り返って」を載せました。
そこには、H18年度の設計製図試験の課題の特徴や掲示板などで争点になった項目を並べ、私なりの
考え方を記載しています。プリントアウトしてみて下さい。それに従って検証してみましょう。
まず、下の標準解答例@とAを開いて、この文章と並べて見比べるか、この文章をプリントアウトし
て見比べながら読むと良いですよ。
←クリック 標準解答例@
←クリック 標準解答例A
【H18年度課題の特徴】
1.全ての所要室に階指定があり、階構成も複雑ではなかった。
→このことを裏付けるように、完成率は高かったようです。
2.真北の方位が振れていた。
→課題が集合住宅で有ったので、日照に対する配慮が問われた。
解答例@は南西住戸と南東住戸のミックス。解答例Aは南西住戸となっている。
南東住戸を計画した場合は、隣地商業施設の影響を考えて離隔距離を取らなければ大きな減点。
3.道路条件の1つが、敷地と段差のある平行2面道路である。
→敷地と段差の有る北東の道路から地下駐車場へのアプローチを計画している。この処理は、敷
地条件から当然発想しなければならないこと。(出題者の意図を素直に掴むことが大事だ。)
4.住戸が1LDKや2LDKと少人数の世帯向けであった。
その割に住戸面積が一般的な面積より、かなり大きめであった。
→解答例@Aとも、住戸プランからは他の施設との関連は読みとれない。ただ、2案とも共用部
に光庭を設け、グレードを高くしている。
グレードの高い低いが合否に関係するとは思わないが、肝心なのは、グリッドを意識して綺麗
なラーメンフレームで構成されている事だ。
また、光庭なしでも計画はできるが、光庭を設けることで計画が断然良くなっている。光庭を
取り除いた場合を想定して見比べと良く分かる。
今回の解答例は、「必然性が有れば、光庭など課題文にない要素を設けても良いよ。」と示唆
しているようで嬉しくなってくる。より実務的になってきたのではないだろうか。
ただ、「設計製図試験は、競技設計ではない。提案の優劣を競っているのではない。」と言う
ことは、再度強調したいですね。
計画する過程で光庭を設けた方が建築的に旨く行くので有れば、臨機応変に取り入れれば良い
のでは無いだろうか。ただ、最初から光庭案をイメージして、イメージを固執して計画すると、
限られた時間内では処理できなくなるよ。
5.構造に関する条件があった。
→「地階部分の計画と地上部分の計画が、構造的に整合性がある計画とする。」とは、結局の所、
「地下のスパン割りと、地上のスパン割りを変えてはダメよ。」と至極当たり前のことだった。
これは、地下では駐車スペースや車路幅を規定し、地上では住戸間口を規定し、上下階の異な
ったスパン要素をどのように処理するか試したかったのだろう。
「試験元の狙いを無視して、安易に柱芯をづらして計画してはダメ。」と警告したのだろう。
特に構造偽装事件が発覚してから初めて迎える試験だから、構造に対してはシビアな採点とな
るのは当然のこと。建築士として構造の素養が有るか無いかは、今回の設計製図試験において
も重要項目の1つだ。
試験元の狙いを的確に掴むことは非常に大事なことだ。これは、実務での「建築主が要望して
いることを的確に掴む。」にも通じることだよ。
【掲示板等で話題になった論争点】
1.北東道路からのアプローチ
→解答例@Aとも北東道路からのアプローチは確保しているが、@は診療所と、Aは集合住宅の
共用部と結ばれていて、建物全体の共用部との連絡は無い。しかも、あくまでもサブ道路とし
ての扱いで、階段のみを設けてスロープは無い。
当たり前の事だが、試験元の考えは、「課題に記述したことを的確に計画すれば良い」なのだ。
とかく設計者は、設計条件が与えられると、創造豊に色々と条件に無いことまで考えてしまう。
「こういう条件で有れば、こうした方が良い。こう有るべきだ。」と考えるのも悪くは無いの
だが、試験は時間との勝負。こだわり過ぎて、肝心の課題を満たさないようだと何の意味もな
い。この辺が試験と実務との違いだろう。実務ではいくらでも残業して、満足するものを造り
出せば良い。
2.住棟の隣地からの距離
→課題の特徴 2.でも述べたところだが、住宅が課題である以上住宅への日照を考えなくては
ならないのは、基本中の基本。まして課題の設計条件の2番目に、わざわざ「住戸については
採光、日照、通風等に配慮した計画」と要求しているのに、多くの受験者が離隔距離を意識せ
ずに計画し、大減点を食らったようだ。
課題冒頭の設計条件には、「計画に当たっては、特に次のことが求められる。」と、2項目が
出題元の要求としてはっきりと示されている。この2項目を具現化する事が設計であるのに、
これを飛ばしては良い結果は得られない。
受験者の中には、この大前提を無視し、所要室を並べることばかりに気を取られている者が多
い。設計条件の意識の仕方が全体に弱いのではないだろうか。
3.日影の件
→例年記述されていた「日影についての特別の配慮はしなくても良い。」と言う文面がH18年
は無かったことで、「今年の課題は、日影は検討しないといけない。」と言う者まで出た。
具体的な日影基準が示されていない上に、制度上日影を正確に検討させるには無理がある。
4.駐車場の斜路
→解答例@A共、斜路も車路も有効 5.5m以上となっている。車路は斜路も含むという解釈が正
しい。受験者の中には課題を正しく読み解こうとするあまり、1語1語に気を取られ、全体の
意味するところを誤ってしまう者がいる。一語一語の注意は必要だが、常識的な判断も必要と
なってくる。
5.駐車場へのスロープは屋外?屋内?
→一般的には、所要室に記述されている室は建物として扱うのが原則だろう。解答例を見ると、
@は建物として扱い、Aは建物外として扱っている。
スロープを含め駐車場は建物扱いと思い、わざわざ屋根まで設けた私の案は、気の使い過ぎだ
ったのか?
どうも固定観念に凝り固まってたようだ。勿論屋内扱いでも間違いでは無いだろうが、屋内で
あろうが屋外扱いであろうが課題の主旨を考えると、どちらでも良いことだった。それよりも
「住宅部門については、防犯に配慮する。」となっていたのに、管理用シャッターを設けなか
った方が減点対象で痛い。
解答例も 100点ではないので、拙い所も見られる。解答例@では、道路境界まで斜路となって
いる。採点としてはどうのように扱っているのか分からないが、安全性から解答例Aのように
フラット部分を設けたいところだ。
6.地下への管理階段
→解答例では@A共、地下を住居部分と共用部とに分けて考えていない。地下の規模や諸室の要
素から、分けて考えること自体に無理がある。
何故このような意見が出てきたかというと、資格学校や通信講座でゾーンとか動線を強く指導
してきたためではないだろうか。ゾーン分けや動線は、重要な要素であるのは間違いではない。
まして、設計条件の第1番目に明記されている。かといって原理主義見たいに、地下の機械室
は住居部分の駐車場とは異なる部門だから、住戸部門とは別のルートとして管理用の階段が必
要とはならない。
一つの原則を金科玉条のように振りかざすのも考え物である。状況を見て、もう少し柔軟に全
体を見て計画を進めなければ、課題文に忠実であっても建物としては、?が付いてしまう。
7.ゴミ置き場は1箇所か?2箇所か?
→この論争は、動線計画の中から出てきた論争であった。ゴミ置き場の対象として、まず住居部
門、次に診療所部門、更にレストランが考えられる。
3つの部門が有り、ゴミ置き場が1つだと当然異種動線の交差が生じてしまう。だから、課題
文にゴミ置き場は1箇所と明示が無いので、設計者の判断で分散しても構わないだろう。
現実に生活ゴミと、医療、産廃ゴミとは扱いが異なる。・・・勇気がいることだったが、私も
この発想で2箇所に分散して計画した。
しかし、解答例を見る限り、外部でのゾーニングや異種動線は意識されていないようだ。
解答例@では、居住者用の自転車置き場と一緒に計画されている。
このことは、今後ゾーニングや動線は屋外については問わないとするものなのか、ゴミ置き場
を1箇所とすると、どう逆立ちしても異種動線の交差は生じてしまうから止むを得ないからか、
模範解答でないので減点されているのかは定かでない。
車いす用駐車場からのアプローチを見ても、車路部分を動線として使っている。これまでの資
格学校や通信講座では分離を強調して指導してきた。分離は1つの原則には違いないが、少し
ナーバスに成りすぎていたのではと思われる。
H17年度の標準解答例でも、外部での動線分離は緩い扱いに成っていたと思う。
※まとめ
まず今年の特徴や掲示板などで論争になった点からコメントしたために、枝葉の話に成ってしま
ったが、全体の印象は、自然な流れで進められた案に感じられる。
こうして試験元が標準解答例として発表するようになったために、試験元の考えが少し感じられ
るようになった。
もっと教条的な考えかなと思ったが、以外と現実的で安心した。
特に今年の課題は、市街地で敷地にゆとりが余りない課題であったが、市街地ということもある
が、隣地境界からの開きスペースを柱芯で1mとしたところは、現実に近いものだ。
これまでの課題が公共施設が多かった事もあってか、資格学校も通信講座も隣地に対しては少し
余裕を持って指導してきた感がある。今回試験元が現実に近い形で発表したことは、意義のある
事だった。
設計製図においては、解答は決して1つではない。個人により重きの置き方により表現が違って
くると思う。それが出題者の狙いに沿っているかどうか、建物として成立するかであって、細か
な数字や条件の積み重ねでは無いだろう。
試験元の要求を的確にイメージするには、日常の建物への興味や建物を見たり体験したりの積み
重ねが、最後にものを言うのだろう。
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◆設計製図の課題発表までに、まだ日数がありますが、次回は、課題が発表された頃にお送りしたい
と思います。
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